新型コロナの重症度、致死率はどれくらい? 最新報告から見えてきた現状

中国1099例の報告を専門家が評価、高齢者や持病のある人は重症肺炎リスク高い

2020/2/17 亀甲綾乃=日経Gooday

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「新型コロナウイルスはインフルエンザに比べると肺炎を起こしやすい印象」とセミナーに登壇した医師たちは話しました。写真はイメージ=(C)Phonlawat chaicheevinlikit-123RF

 感染拡大の一途をたどる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、日本国内でも、感染源の分からない(感染者や武漢渡航歴のある人との接触歴が不明な)市中感染の報告が出てきました。2月13日には、わが国で初の死亡例(神奈川県の80代女性)も確認され、全国に緊張が走りました。

 一方で、このウイルスに感染した患者がどのような症状を経験し、どのような経過をたどるのかという情報も少しずつ蓄積してきています。本記事では、中国における新型コロナウイルス感染症患者1099人の臨床経過を報告した最新の論文と、2月13日に横浜市で開かれた新型コロナウイルスに関するメディア・市民向けセミナー(主催:日本感染症学会、日本環境感染学会、FUSEGU2020)の講演内容を基に、「新型コロナウイルスに感染すると、どのような症状が現れ、どのくらいの人が重症化し、命を落とすのか」について、現時点での情報をまとめていきます。

9割の患者に発熱、7割に咳、重症例は16%

 中国における最新の論文は、中国の31省552病院で、2020年1月29日までに新型コロナウイルス感染が確認された急性呼吸器疾患患者1099人の経過をまとめたものです(*1)。通常、医学論文は、専門家による査読を経て医学ジャーナルに掲載されますが、この報告は、最新知見を迅速に共有することを目的に査読なしの論文を掲載する「medRxiv」というWebサイトに2月9日付で掲載されました。

 今回発表された論文の特徴は、重症例を中心とした従来の報告(*2、*3)に比べて対象患者数が多く、軽症例も多数含まれていることです。1099人のうち、受診時に重症と診断された患者は16%(173人)、非重症と診断された患者は84%(926人)で、全体の82%が入院しました。肺炎の重症度は、米国胸部疾患学会/米国感染症学会の基準(*4)に基づき、敗血症性ショック、呼吸不全、錯乱・見当識障害、白血球減少、低体温、血圧低下など11項目の該当数から判定しました。

 感染から発症までの潜伏期間は中央値で3日でした。症状として最も多く見られたのは発熱で、入院時は43%でしたが、入院中は88%に増加。次いでが68%、倦怠感が38%、が33%に認められ、息切れ筋肉痛・関節痛咽頭痛頭痛悪寒と続きました。消化器症状(嘔吐、下痢)はそれぞれ4~5%にとどまりました(図1)。

図1 中国における新型コロナウイルス感染症患者1099人の症状

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9割に発熱、7割に咳があったほか、倦怠感、痰、筋肉痛・関節痛などの風邪・インフルエンザに似た症状が出現した。(出典:Guan W, et al. Medrxiv, doi: https://doi.org/10.1101/2020.02.06.20020974)

*1 Guan W, et al. Medrxiv, doi: https://doi.org/10.1101/2020.02.06.20020974

*2 Huang C, et al. Lancet. 2020 Jan 24. pii: S0140-6736(20)30183-5. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30183-5

*3 Li Q, et al. N Engl J Med. 2020 Jan 29. doi: 10.1056/NEJMoa2001316.

*4 Metlay JP, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2019; 200:e45-e67

8割弱にCTで肺炎像が見られたが重症例は少ない

 1099人の感染者のうち、胸部レントゲン写真で異常が見られた人は15%でしたが、胸部CTでは76%に異常が見つかりました。つまり、「通常のレントゲン写真では異常がはっきりしないが、CTを撮ってみると肺炎像などが見つかるケースが多い」ということです。胸部CTで異常が見つかった人の約8割は受診時に非重症と判定された患者でした。

 セミナー登壇者の1人で、国内の新型コロナウイルス感染症患者の治療に当たっている国立国際医療研究センター国際感染症センターの忽那賢志氏は、「新型コロナウイルスによる肺炎患者は、肺の胸膜に近いところに薄い影が現れることが多く、胸部レントゲン写真では判断が難しいケースが多い」とした上で、「この報告で、レントゲンでは異常が見られず胸部CTで肺炎像が見られた患者の中には、自然に良くなる軽症患者も含まれている」との見方を示し、「レントゲン検査で異常がなくても全員に胸部CT検査をすべき、という話ではまったくない」と述べました。

 重症例の患者は、非重症の患者に比べて年齢が高く(中央値は重症例52歳、非重症例45歳)、高血圧(24%)、糖尿病(16%)、冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞など、6%)、COPD(慢性閉塞性肺疾患、4%)の持病が有意に多いという特徴がありました。

 発症から肺炎と診断されるまでの日数は4日(中央値)、酸素投与が必要になった患者は38%いました。気管内挿管による人工呼吸管理が行われた患者は2%で、「気管内挿管が必要になるほど重症化する肺炎はかなり少ないと言っていいのではないか」と忽那氏は話しました。この報告における死亡例は15人でした(致命率〔致死率〕1.4%)。

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新型コロナウイルスのメディア・市民向けセミナーで講演を行った国立国際医療研究センターの忽那賢志氏。(2020年2月13日、横浜市内にて)

SARSと比べて患者数は桁違いに多いが、致命率は低い

 2月14日現在、世界の新型コロナウイルス感染症の患者は6万4000人を超え、死亡例は1383人になりました(致命率2.1%)。忽那氏は「新型コロナウイルス感染症は、SARSと比べると感染者は非常に多いが(SARSの感染者は8096人)、致命率はずっと低い(SARSによる死亡者は774人で致命率は9.6%)。今後、もっと軽症の患者を診断できるようになると、見た目の致命率はさらに下がっていくだろう」との見方を示しました。

 新型コロナウイルスに限らず、多くの感染症は、感染しても症状が出ない人(無症候性感染者)や、症状が出ても自然に治るなどして、確定診断されていない人が多数存在するとみられています。医療機関で新型コロナウイルス感染症と診断される人は、氷山の一角にすぎません(図2)。こうした人たちも含めれば、真の致命率はさらに低いものと思われます。私たちは、連日報道される患者数や重症例の報告を、こうした背景を踏まえながら、冷静に受け止める必要があります。

図2 感染しても発症して診断される人は氷山の一角

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新型コロナウイルスに感染しても、症状が出ない人や、症状が出ても自然に治ったり、医療機関で確定診断を受けない人も相当数いるとみられている。(忽那賢志氏がセミナーで提示した図を基に作成)

高齢者や持病のある人は重症肺炎リスクが高いことは明らか

 「現時点ではっきり分かっているのは、高齢者や持病のある人は、新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいということ。また、これまでの感染症に照らし合わせると、免疫不全のある人や妊婦なども重症化しやすい可能性があるので、注意していく必要がある」と忽那氏は強調します。

 国レベルでは今後、検査体制の拡充や、医療機関や介護施設での感染対策の徹底など、取り組むべき課題が山積していますが、私たち一人ひとりは、これまで同様、できるだけ人が集まる場所を避け、手洗い、アルコール消毒、マスク、換気などで感染予防に努めることが大切です。もし風邪のような症状が出た場合は、たとえ症状が軽くても外出を控え、極力人との接触を避けて療養に努めることが、感染の拡大防止、ひいては、ハイリスクの人たちの重症化や死亡を極力減らすことにつながるといえるでしょう。

 たとえ致命率が低くても、感染者が増えれば増えるほど、重症者や死亡者の数は増えてしまいます。自分自身を守るだけでなく、周囲に感染を拡大させないための配慮がこれまで以上に求められています。

(図版制作:増田真一)

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