昨年の夏、ふとした拍子に腰を痛めた。早足で歩けなくなり、階段を上がる時に痛みがはしる。MRIやX線検査では、とくに異常はみつからない。痛み止めで急場をしのいだ。
それから半年、歩く時の痛みはほぼ治り、階段の上りも苦にならなくなった。ただ、まだ腰に違和感がある。ぶり返さないために、腰回りを強くしたい。どうしたらいいか。整形外科医で早稲田大スポーツ科学学術教授の金岡恒治さんに、効果的なトレーニングの方法を聞いてみた。
もともと腰痛は大きく2つに分けられる。画像では診断がつき、急ぎの手術などが必要になる「みえる腰痛」と、画像だけでは原因がわからない「みえない腰痛」に分類される。わたしの腰痛も「みえない」ほうだ。
とりあえず、大事でなかったと、一安心すると、「まずは、どこが痛いのか、なぜ痛いのかを知ることが大切です」と金岡さん。えっ、みえないのでしょ?「画像ではわからなくても、腰の痛みがおきやすい場所は限られているんです」
たとえば関節には痛みをおこす可能性がある部位が三つある。
一つ目は背骨のクッション役をする椎間板。年をとると厚みがなくなってくる。前かがみになると痛みがでるときは、ここがあやしい。二つ目は背骨の後ろ側で背骨どうしをつなぐ椎間関節。弱った椎間板の代わりに働きすぎると、体をそらしたときに痛みがでる。
そして三つ目は骨盤の中にある仙腸関節という関節だ。仙骨と腸骨をつなぎ、ほとんど動かない関節だが、かみあわせが少しずれても、階段の上り下りのときなどに痛みをおこすことがある。男性よりも骨盤が大きい女性に多いという。どうやら、わたしの腰痛はこの3番目だったようだ。
どれかがわかれば、痛みのでる動作と逆の動きをするのだ。椎間板なら腰をそらす、椎間関節では頭を起こして体をまるめる。仙腸関節では、おじぎをしながら骨盤の傾きを変え、痛みのでない位置を探す動作をするといいという。
その上で欠かせないのが、体幹の奥にある筋肉を鍛えて腰痛を未然に防ぐことだ。
基本は、おなかを思い切りへこませて、おなかの奥の筋肉を固めるドローインと、四つんばいになり片方の手と足を前後にのばすハンドニー。ドローインはお尻の穴を同時にキュッと締めながら、ハンドニーは体の軸がぐらぐらしないように気をつけながら行うのがこつだという。
こうしたトレーニングは体幹の奥にある筋肉を目覚めさせ、その動かし方を思い出させるのが目的だ。
鍛えるとおなかが六つに割れる一番外側の「腹直筋」と違い、体幹の奥の「腹横筋」は、もりもりと大きくなったりしない。むしろトレーニングの大事なねらいは、背骨や内臓を包み込む「コルセット筋」のなかで、腹横筋が最初に動き出すようになることで、体の軸がぶれなくすること。たとえば変速機付きの自転車は、最初は一番軽いギアで走り始め、徐々に思いギアに切り替えていく。腹横筋は、この一番軽いギアの役割をするのだという。
金岡さんはシドニー五輪からロンドン五輪まで日本の水泳チームのスポーツドクターなどをつとめた。体の機能のバランスを整える腰痛対策は「ある意味、選手たちにとって、運動能力を高めるチャンスでもあった」と振り返る。
「それは一般の人にもいえるはず。どこが衰えているかを見極めて、改善する運動をすれば、腰痛防止だけでなく、健康寿命をのばすことに通じます。